乳癌の悪性度を評価する際には、「グレード分類」という指標が用いられます。
これは、がん細胞の形態的な特徴をもとに判定され、治療方針の決定や予後の予測にも関わる重要な情報です。
そのうち「核グレード」は、細胞の核の異型度や増殖の程度を評価するもので、病理診断の現場で重視されています。
この記事では、核グレードの評価項目・判定方法・スコアの付け方について、診断の現場に即してわかりやすく解説します。
グレード分類のやり方
乳癌の中で最も頻度が高い浸潤性乳管癌では、腫瘍の悪性度を評価するために「グレード分類(grade)」を行います。
浸潤している部分のみを判定
グレード分類は、浸潤している部分のみを対象に行うのが原則です。
乳癌の病変には、浸潤性乳管癌の周囲に、非浸潤性乳管癌(DCIS)が同時に存在することがよくあります。
このような場合でも、グレード分類は非浸潤部(DCISや乳管内病変)を含めず、浸潤癌の部分だけを評価対象とします。

浸潤についてはこちらの記事で詳しく解説しています。


2種類のグレード分類
乳管癌のグレード分類には、主に以下の2つがあります。
- 核グレード(nuclear grade)
- 組織学的グレード(histologic grade)



今回の記事で言及するのは、核グレードについてです。
もう一つの「組織学的グレード」については、別記事で紹介していますので、あわせてご覧ください。


核グレードとは?
核グレードは、乳癌の悪性度を評価するための指標の一つです。
評価対象は以下の2項目です。
- 核異型(nuclear atypia)
- 核分裂像(mitotic counts)
それぞれに対して「1点」「2点」「3点」でスコアをつけ、合計点でグレードを判定します。
核異型(nuclear atypia)
核異型(nuclear atypia)について紹介する前に「そもそも核って何?」と思われた方もいるかもしれません。



まずは核異型を理解する前提として、細胞を簡単に説明します。
細胞は通常、「核」と「細胞質」の2つの部分から成り立っています。
核は細胞の中央に位置し、遺伝情報を管理する非常に重要な場所です。
一方、細胞質は、核のまわりを満たす部分で、エネルギー代謝やたんぱく質合成などの働きを担っています。
では、癌になるとこの「核」にどんな変化が起きるのでしょうか。
- 核が不自然に大きくなる
- 形がいびつになる
- 細胞間で大きさがバラバラになる
といった変化が現れます。
このような核の異常な変化の程度を観察し、評価するのが「核異型(nuclear atypia)」です。
核異型の点数のつけかた
核異型は、以下のように3段階で点数化されます。
1点:ほぼ正常に近い核
2点:中間的(軽度の異常)
3点:明らかに異常な核構造
実際の診断では、2点が最も多くつけられる印象があります。
もちろん診断する病理医によっても、若干変わってきます。



私の場合、1と2はあまり悩みませんが、「2か3か」で悩むことは日常的にあります。
実は最近、この核異型度が結構重要なんじゃないかなと思ったりすることがあるのですが、その話はまたの機会に。
核分裂像(mitotic counts)
次に、もう一つの評価項目である核分裂像(mitotic counts)についてです。



その前に「核分裂とは何か」を簡単に説明しておきます。
細胞が増えるときには、細胞分裂というプロセスを経ますが、このとき最初に変化が現れるのが「核」です。
通常、1個の細胞が2個に分かれる際、核の中の遺伝情報が複製されて2つに分かれます。
この核が分かれていく現象を「核分裂」と呼びます。
核分裂のあと、細胞全体が2つに分かれる「細胞分裂」へと進みます。
正常の細胞であれば、1個の細胞は分裂しても2個にしか分かれませんが、癌細胞は、1個の細胞が、一気に3個に分かれたり、4個に分かれたりします。
細胞分裂が起こるとき、まず核に変化が生じます。
大きく丸かった核がクシュクシュっと縮み、分裂しようとしている様子が観察されます。



この分裂中の核の形を「核分裂像」と呼びます。
核分裂像が多いほど、細胞が活発に増殖しようとしていると判断されるので、核分裂像の数は「増殖能の高さ」を示す重要な指標になります。
核分裂像のカウントは、癌のある部位から代表的な10視野を選び、そこで観察される分裂像の数を数えて評価します。
点数の目安は次のとおりです(レンズ倍率20の場合)
- 5個未満:1点
- 5〜10個:2点
- 11個以上:3点
ただし、それぞれの病理医が使っている顕微鏡のレンズ(目をくっつけるところ)の大きさで、この個数は微妙に変わってきます。
記載方法としては【23個/10HPF(視野数26.5)】のように、使用しているレンズ条件を併記することもあります。



私はというと、こんなふうに書いても暗号みたいになっちゃうかなと思い、核分裂像の個数は書かずに点数だけ書いています。
核分裂像のカウント方法については、以下の記事で解説しています。


核グレード(nuclear grade)の判定
核グレードは、核異型、核分裂像の2項目をそれぞれ1〜3点で評価し、その合計点によって判定されます。
合計点数 | 核グレード |
---|---|
2点〜3点 | グレード1 |
4点 | グレード2 |
5点〜6点 | グレード3 |
- 核異型:2点
- 核分裂像:3点
であった場合、合計が5点となり「グレード3」と判定されます。
なお、病理報告書などでは、
- 核異型 → nuclear atypia(na)
- 核分裂像 → mitotic counts(mc)
といった英語表記が使われていることもあります。
まとめ
核グレードは、核異型と核分裂像の2つの要素を点数化して評価する指標です。
この評価によって乳癌の悪性度や増殖能を客観的に判断することができ、治療方針の決定に役立ちます。
ただし、病理医による判定のばらつきがある部分でもあるため、他の検査結果と総合的に判断することが重要です。