乳癌のグレード判定には核グレードの他に、もう一つ重要な分類があります。
それが「組織学的グレード」です。
組織学的グレードは核グレードの要素に加えて、癌組織の構造的な特徴も評価に含めることで包括的な悪性度判定を行います。
今回は組織学的グレードの評価方法と臨床的意義について詳しく解説します。
組織学的グレードの評価項目
組織学的グレードは核異型度と核分裂像に加えて、【管腔形成】スコアに、1点、2点、3点の点数をつけて、合算して判断します。
核異型度と核分裂像については、「乳癌のグレード(Grade)判定とは?【核グレード編】」で詳しくお伝えしています。


ちなみに核分裂像の個数と点数の基準は、核グレードの時と若干個数が変わってきます。
管腔形成スコアとは
管腔形成スコアは、癌組織がどれだけ「管腔構造(管状の構造)」を形成しているかを評価する指標です。



管腔はホースのような構造をしています。
病理組織の観察において、癌細胞が元の正常な乳管のような構造を再現しているかどうかを確認します。
乳癌、とくに浸潤性乳管癌では乳管上皮を起源とするため、本来の機能に近い構造(=管腔)を保っているほど分化度が高く、悪性度は低いと判断されます。
そのため、管腔を多く形成している場合はスコアが低く、逆に形成が乏しいほどスコアが高くなります。
3点:管腔形成率が10%未満
1点:管腔形成率が75%を超える
2点:管腔形成率が10%以上75%以下
組織学的グレードの判定
以下の3項目をそれぞれスコア化し、合計点でグレードを決定します。
- 管腔形成スコア(上記)
- 核異型度スコア(細胞核の形・大きさのばらつき)
- 核分裂像スコア(細胞分裂の頻度)
合計スコア | グレード(Grade) |
---|---|
3点〜5点 | Grade Ⅰ(低悪性度) |
6点・7点 | Grade Ⅱ(中間悪性度) |
8点・9点 | Grade Ⅲ(高悪性度) |
組織学的グレードの臨床的意義
組織学的グレード(核グレード)は、乳癌の予後予測に用いられています。
予後予測に関与する主な要素としては、以下のような病理学的・臨床的因子があります。
- 浸潤径(腫瘍の大きさ)
- リンパ節転移の有無
- 組織学的グレード(腫瘍の顔つき)
組織学的グレードは、腫瘍がどれだけ「正常な乳管上皮に近い構造を保っているか」を示すもので、次のようにおおまかに予後との関連が整理されています。
グレード | 悪性度 | 一般的な予後の傾向 |
---|---|---|
Grade Ⅰ | 低悪性度 | 予後良好 |
Grade Ⅱ | 中間悪性度 | 中間的な予後 |
Grade Ⅲ | 高悪性度 | 予後不良とされる傾向 |
ただし、乳癌はホルモン受容体の有無(ER・PR)、HER2の過剰発現、Ki-67値などの分子マーカーによっても治療方針や治療効果が大きく左右されます。
Grade Ⅲであっても、HER2陽性であれば分子標的薬が有効に作用し、長期的に良好な経過をたどるケースもあります。
そのため、グレードは単独ではなく、他の因子とあわせて総合的に評価されるべき情報です。
グレード分類の課題
組織学的グレード(核グレード)は、腫瘍細胞の形態的特徴をもとに評価するため、病理医の主観が入りやすく、再現性に課題があるとされています。



例えば、同じプレパラートを異なる病理医が評価した場合、判定結果に差が出ることがあります。
また、同一の病理医であっても、評価するタイミング(別の日・異なる時間帯)によって判定が変わるケースも報告されています。
グレード分類の信頼性を保つため、多くの施設では以下のような対策が講じられています。
- 定期的な病理カンファレンスで、複数の病理医による意見交換を行い、判定基準のすり合わせ(目合わせ)を実施
- 教育的症例レビューにより、判断基準の共有と判定の均質化を図る
- デジタル病理やAI補助診断の導入による客観化の試みも進行中
特に誤判定が治療方針に大きく影響する可能性があるため、Grade 1とGrade 3の入れ違いが起きないよう、精度管理と継続的な教育が不可欠とされています。
まとめ
組織学的グレードは、核異型度・核分裂像・管腔形成の3項目を総合して評価する指標であり、乳癌の予後予測に役立つとされています。
ただし、グレードが高いからといって必ずしも予後が悪いとは限りません。
ホルモン受容体(ER・PR)やHER2の発現状況など、他の因子とあわせて総合的に評価されるのが、乳癌診療の特徴です。
治療方針は、組織学的グレードだけでなく複数の病理・分子学的情報に基づいて決定されるという点を、患者さんにも理解していただければと思います。