【乳癌ルミナルAの真実】乳癌サブタイプ診断の落とし穴

乳癌には、いくつもの分類方法があります。

なかでも「ルミナルA」「ルミナルB」などのサブタイプ分類は、治療法や再発リスクを考える上で非常に重要な指標とされています。

よりか先生

しかし実際には、こうした分類が“正確に”行われているとは限りません。

診療で伝えられる「ルミナルA」は、あくまで「ルミナルAのような癌」にすぎない場合が多く、その背景にはさまざまな事情があります。

本記事では、病理の現場から見える診断のリアルと、分類に潜むグレーゾーンについて解説します。

目次

乳癌の分類方法

乳癌には、複数の視点から分類する方法があります。

以下に代表的な分類方法をお伝えします。

顕微鏡で見たときの形で分ける組織型

組織型とは、がん組織の構造や細胞の配列など、顕微鏡で観察した形態に基づく分類です。

乳癌では主に「非浸潤がん」と「浸潤がん」に大別され、さらに「浸潤性乳管がん」「浸潤性小葉がん」などの細分類があります。

よりか先生

組織型についてはこちらの記事をお読みください。

顕微鏡で見たときの癌細胞の顔つきで分けるGrade判定

Grade(グレード)判定は、がん細胞の「顔つき」=異型度(どれだけ正常細胞と違うか)や分裂の活発さなどを評価し、1~3段階で判定します。

代表的な指標は「核異型度」「腺管形成の程度」「核分裂像」などで、合計点によってGrade 1(低悪性度)~Grade 3(高悪性度)に分類されます。

よりか先生

Grade(グレード)判定についてはこちらの記事をお読みください。

遺伝子発現レベルで分けるサブタイプ

この分類が、今回の記事のテーマであるLuminal(ルミナール、またはルミナル)A・Bや、HER2-enrichedなどのサブタイプにあたります。

よりか先生

詳しく説明していきます。

サブタイプ分類の落とし穴

サブタイプ分類は、乳癌の予後予測や治療薬の選択に役立つとても有用な分類です。

よりか先生

ただし、落とし穴があるのです。

乳癌のサブタイプ分類は、本来、遺伝子発現に基づいた解析(遺伝子プロファイリング検査)によって行われます。

Luminal A」「Luminal B」といった分類は、遺伝子の働き方を測定することで初めて正確に判断されます。

ただし、このような遺伝子解析は特殊な検査機関で行われ、費用も高額です。

そのため、通常の診療の中でサブタイプを正確に分類することは難しいのが実情です。

でも実際には、乳癌と診断された多くの方が、通院中の病院で「ルミナルAタイプです」「ルミナルBタイプですね」と説明を受けているはずです。

よりか先生

なぜでしょうか?

実はこれ、「LuminalA-likeつまり、LuminalAのような癌に分類されますよ。」ということを言っているのです。

通常の診療で分かる項目を組み合わせて、

  • Luminal Aに近いと思われる癌
  • Luminal Bに近いと思われる癌
  • HER2タイプに近いと思われる癌
  • トリプルネガティブ

に分けているのです。

つまり、「あなたはルミナルAです」と言われても、厳密にはルミナルAではない可能性があるということです。

ただし、信頼性がないわけではありません。

遺伝子レベルで判別されるサブタイプを、免疫染色(ホルモン受容体、HER2、Ki-67など)の結果を元に代用しようと工夫された方法であり、多くの症例データに基づいて構築された実績ある分類手法です。

私も実際に多くの乳癌や再発症例を見ていると、「ルミナルAのような癌」とされる中にも、本当にルミナルAに近いと思われる安定した症例や実はルミナルBに近いのではないかと思われるやや不安定な症例を見かけます。

もちろん、「ルミナルAのような癌」のほうが、再発が少ないことは事実です。

癌細胞にも個性がある

正直なところ、ルミナルA、ルミナルB、HER2タイプ、などの分類は、血液型くらいの分類くらいに思っておいてもいいのでは、と私は思っています。

よりか先生

こんなことをいうと、偉い先生方には怒られるかもしれませんが…

血液型がA型の人はものすごく几帳面で、B型はぶっ飛んでいて、AB型は変わってて、O型はおおらか、みたいな風に言われますよね。

大まかにはそうかもしれないけど、血液型で性格すべてを説明できません。

癌細胞も同様です。

まったく同じものは存在しませんが、「よく似た」性質を持つものはあります。

似ている細胞を見つけ出し、薬が効きやすいタイプや再発しやすいタイプを分類し、少しでも予後を改善しようと試行錯誤が続けられています。

ただ、どんな分類を用いても、すべての癌をきれいに分けられるわけではありません。

分類しきれないものもあるということをぜひ知っておいて欲しいと思います。

よりか先生

ちなみに私の血液型はB型です。(ぶっ飛び型…?)

まとめ

あなたはルミナルAですよ」と言われたとき、それがどのような根拠に基づくものかを知っておくことは重要です。

サブタイプ分類は治療方針の目安になりますが、すべてを決めるものではありません。

乳癌の診療では、病理所見や年齢、他のリスク因子なども含めた総合判断が求められます。

分類に頼りきらず、理解した上で治療方針を話し合えることが、患者さんにとって本当の安心につながると考えています。

実際に行われている、「ルミナルAのような癌」についてどのように判定されているのかについては以下の記事で解説していますのでよろしければお読みください

よりか先生
病理医
病理医として、日々たくさんの「命」と向き合っています。このブログでは、乳がんやがん検診のこと、そしていのちの大切さについて、わかりやすくお伝えしていきます。
医師として、そして子育て中の母として、読者の方が少しでも安心できるような情報をお届けしています。
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