乳癌はいくつかの種類に分けられ、その中でもサブタイプ(ルミナルAなど)の分類が重要な役割を果たしています。
今回は、実際にどのようにして分けられているかについて詳しく解説します。
病院で「あなたはルミナルAです」と診断されることがありますが、実は「ルミナルAのような癌である」という判定であることを理解しておくことが大切です。

ルミナルAについてはぜひこちらの記事もお読みください。


ルミナルタイプの判定に使われる検査項目
ルミナルAのような癌と判断するには、以下のような項目を組み合わせて診断されています。
- エストロゲンレセプターなどのホルモンレセプターがあるかどうか
- HER2が出ているかどうか
- Ki-67の値
- Oncotype Dxなどの多遺伝子アッセイ
これらの項目をみる検査は、それぞれに弱点があります。
Ki-67について詳しく見ていきましょう。
Ki-67検査の課題
乳癌の患者さんの中には、生検時と手術時でKi-67の数値が大きく異なったり、異なる医療機関で検査を受けた際に結果が違ったりした経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。



検査結果にはばらつきがあるのです。


Ki-67は、とても低い、もしくは、とても高い、状態であれば結果を癌の分類に用いる意味があります。
乳癌ガイドラインによる基準が以下です。
- 低値:10%よりも低い
- 高値:30%よりも高い
ただし、この数値は施設によって変わることがあり、一部の教科書では「5%未満」と「30%以上」を基準とすることを推奨している場合もあります。
なぜ検査結果にばらつきが生じるのか
施設による違い
Ki-67は、同じ人の同じ癌であっても、検査を受ける施設によって数値が異なることがあります。
つまり、日本全国どこで検査をしても、必ず同じ数値になるとは限りません。
このような違いは、Ki-67に特有の現象ではありません。
普段受ける血液検査なども含めて、検査というものは各施設ごとに基準値や評価の仕方が異なり、その施設内で精度管理されています。



極端な例ですが、イメージとしてはこんな感じ。
例えば、検査服を用意しているA施設では、体重測定時に「検査服の重さは500g」として、体重から500gを差し引いた値を記録します。
一方、検査服のないB施設では、「衣服の重さをおおよそ1kg」として、測定された値から1kgを引いた体重が記録されます。
このように、同じ人がA施設とB施設で測定を受けたとしても記録される数値は異なるというわけです。
検査機器と試薬の違い
Ki-67の検査は、特殊な染色によって行われます。
染色には、検査機器と「抗体」と呼ばれる薬剤の両方が必要です。
機械や抗体は複数のメーカーから提供されており、どの組み合わせを使うかは施設ごとに異なります。
A病院では○○社の機械と抗体、B病院では△△社の製品というように、使用されている機器や薬剤そのものが違う場合があります。
その他の要因
採取された癌の状態によっても免疫染色の出方が変わります。
また、どの部位の細胞をカウントするか、つまりKi-67陽性の細胞を「どこで」「どの範囲で」数えるかによっても、結果には差が生じます。


乳癌の症例数が多い施設では、その病院独自のカットオフ値を設定していることがあります。
「当院ではKi-67が20%未満なら低値、20%以上なら高値と判断している」といったように、運用上の基準を持っているケースです。
実際、ホルモンレセプター陽性・HER2陰性の乳癌では、Ki-67が
- 閉経後なら25%以上
- 閉経前なら20%以上
という条件に当てはまる場合、これら未満の症例よりも予後が悪いというデータも報告されています。
このように、各施設で得られた臨床データに基づいて独自の判定基準が形成されることがあります。
Ki-67の信頼性
「結局、Ki-67は信用できないの?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、施設間で結果に差が出ることもありますが、診療ガイドラインでは今もなお重要な指標とされています。
Ki-67の数値については「10%未満を低値」「30%以上を高値」とするのが基本の目安です。
実際の診断現場でも、
- 数値が一桁なら「かなり低い」
- 25%を超えると「やや高い」
- 35%を超えると「高い」
というように、経験的にも一定の判断の基準となっています。
他人の数値は自分にそのまま当てはまらない
乳癌と診断され、治療について調べる過程で、「自分はKi-67が18%だからルミナルAです」といった情報を目にすることがあるかもしれません。
ですが、その数値や診断を自分の状態にそのまま当てはめて判断することは適切ではありません。
乳癌は大腸癌や胃癌と比べても、患者ごとのタイプの違いが大きく、分類方法も多岐にわたります。
その背景には、乳癌は、他の臓器の癌よりも、癌の種類を分ける方法の開発が進んでいますし、予後や治療効果も他の癌よりも明確になりやすいと私は理解しています。
比較ではなく、自分の状態を知ることが大切
自分の癌が、どのタイプに分類されるかを把握することはとても重要です。
ただし、その結果を他の乳癌患者さんと比較することは有用ではありません。
近い状態の方がいるように見えることはありますが、個々の癌の状態を正確に理解した上で比較するのは、専門家でなければ難しい作業です。
インターネット上で情報を集めていると、
「同じルミナルAなのに、あの人は再発したらしい。自分もそうなるのでは?」
「Ki-67が○○%だからルミナルAのはずなのに、あの人は抗がん剤を使っている。自分は使わなくて大丈夫なのか?」
といった疑問を持つことがあるかもしれません。



ルミナルAやルミナルBという言葉だけで、自分と同じ癌かどうかを判断しなくていいです。
乳癌と診断された方にとって、同じ経験をした方の話は今後どんな治療を受けるのか、どう過ごしていけばよいのかといった不安を和らげてくれる大切な情報源になることは確かだと思います。
ただ、色んな情報を自分自身に当てはめて正確に判断するのはなかなか難しいので、主治医や、がん相談支援センターのようなところで質問するのが一番よいと思います。
とはいえ、「主治医は忙しそうで、なかなか聞けない」という声もよく聞きます。
そのようなときに役立つ情報として、信頼できる書籍を紹介しておきます。



日本乳癌学会が出しているので間違いないです。Webでも見ることができますよ。
ちなみに医師との付き合い方について書いた記事もありますので、こちらもよろしければ見てください。


まとめ
今回は、乳癌のサブタイプのひとつであるルミナルタイプについて判定方法や注意点を中心にお伝えしました。
同じルミナルAという診断でも、背景となる数値や診断の過程には個人差があります。



他の方と比較して安易に判断しないようにしましょう。
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