病院で先生から「組織を少し取って調べます」と説明されたことがあるかもしれません。
これは「生検(せいけん)」と呼ばれ、病変の詳しい状態を調べる際に行われる検査です。
生検では具体的に何をするのでしょうか?
この記事では、生検の基本的な意味や目的、検査方法の種類、診断における役割について、医療の現場視点でわかりやすく解説します。
生検について
生検(せいけん)とは、体の一部を採取して、顕微鏡などで詳しく調べる検査のことです。
医療現場では、通常「組織診(そしきしん)」のことを指して使われることが多くなっています。
組織診とは、採取した組織の形や構造を顕微鏡で確認し、病気かどうかを判断する検査のことです。

特に、がんが疑われる場合に、診断の確定や治療方針の決定を目的として行われます。
なお、「生検」という言葉はやや広義に使われることがあり、細胞診を含むと考える人もいます。
組織診と細胞診の違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事もお読みください。


なぜ生検が必要なの?
病気の原因を見極めるとき、内視鏡やCTなどの画像だけではわからないことがあります。
実際に細胞や組織を観察することで、「何が起きているのか」を判断します。
例えば、胃の調子が悪くて胃カメラを受けたとします。
検査で、胃の中に大きな潰瘍が見つかりました。



潰瘍とは、山のように盛り上がった部分の中央がえぐれたような病変のことです。
潰瘍によって不調が起きていると考えられるので、潰瘍を治せば症状は改善するはずです。
しかし、どんな治療をすればよいのかは潰瘍ができた「原因」を知らなければなりません。
潰瘍は結果であって、背後にある原因はさまざま。
- 胃酸が出すぎている
- 飲んでいる痛み止めなどの薬が原因
- 胃がんの一部として生じている
同じように見える潰瘍でも、原因が異なれば治療法も変わってきます。
そこで必要になるのが、生検なのです。
生検しなければ本当に良性かわからない
大きな潰瘍が見つかった場合、どれだけ経験を積んだ消化器内科医であってもほとんどの症例で生検を行うはずです。
一昔前は、「これは良性潰瘍だ」と医師の経験則に基づいて、胃酸を抑える薬で治療が開始になったかもしれません。
現在でも「どう見ても悪性ではなさそう」と判断された場合、経過観察を選ぶこともあるでしょう。
しかし、これらはいずれも内視鏡で見た診断であって、顕微鏡で組織を確認しなければ良性か悪性かの確定はできません。



実際、薬で様子を見ていたが改善しないので生検を行ったという流れはよくあります。
例えば皮膚の病気では、胃や大腸に比べて生検にかかる負担が少ないため、このようなやり方が多い気がします。
乳房のしこりにおいても、超音波(エコー)検査で良性と考えられ経過観察されていたものが、後になって大きくなってきたため、生検を行ったというケースもあります。
生検のメリットとデメリット
生検にはたくさんのメリットがありますが、デメリットもあります。
生検のメリット
- 病気の正体が明確になる
- 治療方針を決める材料になる
- 予後の見通しが立てやすくなる
生検により病気の正体が明確になることで、推測ではなく確実な診断に基づいた治療が可能になります。
また、がんの種類や悪性度、進行度などの詳細な情報が得られるため、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を決めるのに役立ちます。
そして正確な診断結果が得られれば、今後の経過や治療の効果について具体的な見通しを立てやすくなります。
生検のデメリット
- 痛みや出血を伴う場合がある
- 病変を取り損ねることがある



厄介なのは2つ目です。
生検では、組織の一部しか取らないため、病気の部分を正確に採取できないことがあるのです。
採取した部分に病変が含まれていなければ、「異常なし」という結果になります。
乳房のしこりでも、針がうまく刺さらず、腫瘍の中心から外れてしまうときもあります。
その結果、最初の生検では「問題なし」だったのに、再検査で癌が見つかるということも珍しくありません。
詳しい検査をした結果「大丈夫」と言われたのに、数ヶ月後に癌が見つかることも日常診療ではよくあるのですが、患者さんにとっては大きな衝撃ですよね。
生検という検査の仕組み上、どうしても避けきれない部分があるのです。
まとめ
医療は日々進歩していますが、それでも限界があります。



世の中に完璧なものはありませんし、医療もその中の一つです。
私たち医療従事者は、不調の原因を見極め、考えうる治療法を丁寧にお伝えします。
病気をどのように受け止め、治療を受けて向き合っていくのかは、患者さんご自身の意思に委ねられています。
私は、そのお手伝いを精一杯させていただきたいと考えています。