癌が子どもに少ないことを不思議に思ったことはありませんか?

これには、胸腺(きょうせん)が関係しているのではないかと言われています。
胸腺は、いまだ解明されていない部分が多い臓器のひとつで現在も研究が続けられています。
今回は、この胸腺について見ていきましょう。
胸腺とは?
胸腺は、免疫機能にとって欠かせない臓器です。
胸腺の働きや構造について見ていきましょう。
胸腺の働き
胸腺は骨髄で産生された未成熟なT細胞(Tリンパ球前駆細胞)が移動して成熟する場所です。
骨髄でつくられた未熟なT細胞は胸腺に移動し、ここで自分の体を攻撃しないかどうか選別されます。



T細胞は抗原受容体をランダムに作るため、自分の体の成分に反応してしまう細胞も含まれるのです。
この過程を通過した細胞だけが、成熟したT細胞として全身に送り出されます。
胸腺の働きがなければ、自己を攻撃するT細胞が体内に残ってしまい、自己免疫疾患につながります。
胸腺の構造
胸腺は胸骨の後ろ、心臓の前方に位置し、H字に似た形をしています。
内部は「皮質」と「髄質」という2つの領域に分かれています。
皮質(ひしつ)
胸腺の外側にあたり、上皮細胞が網目状の構造をつくり、その間に未成熟な胸腺細胞(主にTリンパ球の前駆細胞)が密集しています。
組織学的には濃く染色されるのが特徴で、ここでT細胞は増殖と初期の分化を行います。
髄質(ずいしつ)
皮質の内側に位置し、上皮細胞の結合が粗く、少数の成熟T細胞が存在します。
髄質には胸腺小体(ハッサル小体)と呼ばれる独特の構造があり、マクロファージや樹状細胞も見られます。
この場でT細胞は最終的な選別を受け、免疫として働く準備を整えます。
胸腺は大人になると小さくなる?
子どもの間は組織として認識できる胸腺も思春期をピークに徐々に縮小し、成人になる頃には大部分が脂肪組織に置き換わってしまいます。



この現象は「胸腺退縮」と呼ばれています。
胸腺退縮は免疫老化の一因とされており、性ホルモンやストレスホルモンの影響を強く受けます。
大人になっても胸腺は免疫に関わっているとされていますが、子どもの頃と比べると明らかに小さくなるため、胸腺機能の衰えが癌の発生リスクを高めているのではないかと考えられています。
健康な免疫システムには「免疫監視」という仕組みがあり、異常な細胞を早期に察知して排除します。
特に、キラーT細胞やナチュラルキラー細胞といった細胞性免疫が癌細胞の排除に重要な役割を担っています。
よく「腸活で免疫を上げてがん予防」、というフレーズを目にしますよね。
私はそれを見るたびに、「腸活もいいけど、本当は胸腺活なのよね~」なんて思いながら、胸腺は胸骨の裏にあるので、胸骨の上をさすったり、その周りをマッサージしたりしています。



さすることで、胸腺の働きが上がるというエビデンスはありません(笑)
癌が少ない臓器はある?
以前SNSで、「心臓と脾臓に癌が少ないのは臓器の温度が高いからだ」とおっしゃっている動画を見かけました。



うーん、心臓と脾臓に癌が少ないのは、上皮細胞がないからです。
代わりに肉腫やリンパ腫が起こることがあります。
また、他の臓器の癌が心臓や脾臓に転移することはあります。
癌(がん): 上皮細胞から発生する悪性腫瘍
肉腫:筋肉、骨、軟骨、血管などの間葉系組織から発生 リンパ腫: リンパ球系細胞から発生
肉腫自体が、頻度の低いものなので、心臓と脾臓の悪い病気は少なくなります。



肉腫についてはこちらの記事を見てください。


ちなみに、上皮細胞のある臓器で癌が少ないのは、精嚢ですね。
精嚢とは前立腺の近くにあり、前立腺とともに精液の成分を分泌する臓器です。
前立腺癌や精巣腫瘍の転移や直接浸潤はありますが、精嚢から発生した癌は非常に珍しいです。



精嚢の温度は約34℃前後と低いのですが、癌が少ないのはなぜでしょう?と聞いてみたいです。
まとめ
子どもにがんが少ない理由についてお伝えしました。
これは、胸腺が関係しているのではないかと考えられています。
まだ十分に解明されてはいませんが、免疫システムにおける胸腺の役割はとても重要です。
今後の研究が進めば、胸腺の働きをどう維持したり再生したりできるかが、健康やがん予防とどのようにつながるのか、さらに明らかになっていくと期待されます。