子宮頸癌のウイルス感染について

子宮頸癌と聞いて、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか

芸能人の中にも子宮頸癌を公表された方がいるため、まったく知られていない病気ではないと思います。

よりか先生

子宮頸癌について押さえておきたいのは二つの点です。

一つ目はウイルス感染によって発がんすることが証明されており、その予防のためにワクチンが開発されていること。

二つ目が、症状が出てから検査を受けても手遅れになりやすいため、検診を受けて早期に発見することが重要だという点です。

今回は、一つ目のポイントである「ウイルス感染」についてお話します。

目次

子宮頸癌とは

子宮頸癌(しきゅうけいがん)は、子宮の出口にあたる子宮頸部に発生する悪性腫瘍です。

性的に活発な女性の約8割は生涯のうち一度は原因となるウイルスに感染するといわれていますが、多くは免疫の働きによって自然に排除されます。

子宮頸癌を発生させるHPV

子宮頸癌を発生させるウイルスは、「HPV=ヒトパピローマウイルス」です。

よりか先生

呼ぶときは、「エイチピーブイ」とそのまま読むことが多いです。

病原体への感染が原因となって発生する「がん」は、主に次の三つで大部分を占めています。

  1. ヘリコバクターピロリ菌による「がん」:36.3%
  2. HPVによる「がん」:31.1%
  3. B型肝炎ウイルスによる「がん」:16.3%

ヘリコバクターピロリ菌の除菌が普及したことで胃がんは大きく減少しました。

そのため、今後は感染によって発生するがんの中で、HPVがより重要な位置を占めていくと考えられます。

よりか先生

HPVは200以上の種類があり、番号が付けられています。

皮膚にイボをつくるタイプもあれば、がんの原因となるタイプもあるなど非常に多彩です。

感染経路

HPVは性行為によって感染します。

口腔性交を含む接触を通じて人から人へうつり、外陰部や膣、子宮だけでなく肛門や陰茎、陰嚢、さらには口腔や喉にまで病変をつくる可能性があります。

人間の体とウイルスの攻防

人間の体は免疫によって守られているため、ウイルスが侵入しても必ず病気になるわけではありません。

よりか先生

重要なのはがんのできやすいウイルスの種類と場所です。

「がん」のできやすいウイルスの種類

HPVの中でも、HPV16型と18型は子宮頸がんの約70%を引き起こす原因とされています。

そのほかにもHPV31型、33型、45型、52型、58型などが発がんと関わることが知られています。

「がん」のできやすい場所

がんが発生しやすい場所として代表的なのは子宮頸部ですが、肛門や中咽頭(のどの奥で嚥下に関わる部分)もHPV関連がんの好発部位です。

よりか先生

実際私は顕微鏡で、他の部分にも、HPV関連かも?と思う病変を目にしたことがあります。

頻度は低いけれど、目のがん(眼瞼眼球結膜癌、涙嚢癌)もHPV関連といわれています。

HPVワクチンについて

HPV感染を予防する方法にワクチンがあります。

3種類のワクチン

予防できるHPVの種類ごとに3つのワクチンがあります。

2価ワクチン

  • HPV16と18を網羅(子宮頸がんの70%をカバー)

4価ワクチン

  • 2価ワクチンの内容に加えてHPV6と11を網羅(尖圭コンジローマという厄介なイボの原因)
よりか先生

尖圭コンジローマについてはまたの機会に詳しくお話しします。

9価ワクチン

  • 4価ワクチンの内容に加えてHPV31, 33, 45, 52, 58も網羅

日本での接種状況

現在、日本で男児への接種が認められている(救済制度がある)のは、4価ワクチンのみです。

ただし、全額自己負担なので、1人5万円程度の費用がかかります。

接種のタイミング

HPVワクチンを打つタイミングですが、HPVに感染する前、つまり初回の性行為前に打つ必要があります。

すでに感染している場合、ワクチンを接種しても感染を取り除く作用はありません。

接種の目的

HPVワクチンには2つの重要な目的があります。

一つ目は、がん予防です。(0.2%という低い頻度とはいえ命に関わるがんにかかる可能性があり、そのリスクを防ぐ)

二つ目は、感染拡大の防止です。(HPVは人から人へうつる感染症であるため、接種が広がれば社会全体での感染抑制につながる)

しかし、現在の日本では「がん予防」という側面ばかりが強調されており、社会全体で感染を広げないという目的は十分に意識されていません。

その背景には、男児が定期接種の対象から外れていることがあります。

HPV感染の実態

HPVは非常に身近なウイルスで、女性の約80%が一生のうちに一度は感染するといわれています。

多くの場合、感染しても心配はいりません。

実際、感染者の約90%は自分の免疫の働きによって3年ほどでウイルスを排除します。

しかし残りの約10%では体内にウイルスが残り、その一部が進行して前がん病変であるHSIL(高度扁平上皮内病変)や子宮頸がんへとつながる可能性があります。

よりか先生

HSILは、専門医や病理・婦人科領域に携わる医師の間では 「ハイシル」 と読みます。

最終的に命に関わる浸潤がんに進むのは、HPV感染者全体の0.2%に過ぎません。

数字だけ見れば進行する割合は低いのですが、もともとの感染者数が非常に多いため、実際には多くの患者さんが発生しています。

妊娠・出産に与える影響

子宮頸がんは、癌や前癌状態となって治療が必要になる時期と、妊娠を望む時期がちょうど重なる病気です。

初期の段階であれば、病変部位を子宮の入り口から部分的に切除するだけで治療が可能です。

しかし進行してしまうと、子宮をすべて摘出しなければならず、自分の子宮で妊娠することはできなくなります。

また、子宮の一部を切除する手術で済んだ場合でも、その後の妊娠や出産には影響が及びます。

研究では、手術を受けた女性は早産のリスクが約3倍に増え、帝王切開の割合や低出生体重児の出生率も同じく3倍程度に高まることが報告されています。

まとめ

子宮頸がんについてお伝えしてきました。

子宮頸がんは若い世代に発症することが多く、妊娠や出産に大きな影響を与える病気です。

ただ、子宮頸がんはワクチンによって防ぐことができる数少ないがんの一つです。

予防接種は、親が子どもたちに贈ることができるギフトではないでしょうか。

よりか先生

私自身も、長女だけでなく長男・次男・三男にも接種を予定しています。

親が情報を吟味し、納得した上でプレゼントするかどうかを決めてほしいと思っています。

よりか先生
病理医
病理医として、日々たくさんの「命」と向き合っています。このブログでは、乳がんやがん検診のこと、そしていのちの大切さについて、わかりやすくお伝えしていきます。
医師として、そして子育て中の母として、読者の方が少しでも安心できるような情報をお届けしています。
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