「特許取得済!」
「冴える記憶力!」
「塩分カット!」
そんな言葉に誘われて、健康食品を手にする人もいるでしょう。
かくいう私も最近あるサプリを福袋で購入しました。
毎日100検体以上を顕微鏡で見て、がん細胞と向き合う病理医歴15年以上の私。
ふと「職業病」が疼きました。
よりか先生これ、中身はどうなってるのだろう?
特許番号を調べ、成分表を計算し、論文を読んでいくと…。
そこには嘘ではないけれど、私たちが期待しているものとは少し違うという、健康食品業界の巧妙な罠がありました。
減塩について
健康診断で「塩分を控えましょう」と言われた経験はありませんか。
スーパーに行けば「減塩」「塩分25%カット」「天然塩でミネラル豊富」と謳う商品がずらりと並んでいます。



でも、その表示の意味を正しく理解できている人はほとんどいません。
ここでは、減塩を考える上で欠かせない「食塩」と「ナトリウム」の違いから、商品の数字のマジックまでを解き明かしていきます。
「食塩」と「ナトリウム」は別物!メロンパンの法則
「食塩=塩化ナトリウム」と中学校で習ったのをなんとなく覚えているのではないでしょうか?
では、食塩1gの中にナトリウムが何g入っているかご存じですか?
食塩1gの中身は「ナトリウム0.39g+塩素0.61g」。



ナトリウムよりも塩素のほうが多いのです。
この事実を知っているかどうかで、減塩商品の見方が180度変わります。
食塩(NaCl)は、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)が手をつないだペアですが、重さが均等ではありません。
塩素の原子量が「35.5」、ナトリウムの原子量が「23」と、塩素のほうがずっと重いのです。
だから食塩1gを用意しても、中身は「ナトリウム0.39g+塩素0.61g」という構成になっています。



私はこれを「メロンパンの法則」と呼んでいます。
メロンパンは、パン生地とクッキー生地でできていますよね。
仮にクッキー部分が61g、パン部分が39gだとすると、「メロンパンを食べた」といっても、実際に食べたパンの量は39gです。
残り61gはクッキーを食べたことになります。
血圧に影響するのは「パン生地(ナトリウム)の部分だけ」でクッキー部分(塩素)は血圧とは関係ありません。
だから本当に気にすべきは「食塩を何g食べたか」ではなく、「ナトリウムを何g食べたか」なのです。
「塩分25%カット」の数字のマジック
「天然塩は血圧が上がらない」
「ミネラル豊富な塩は体にいい」



よく聞きますが、これは本当でしょうか。
例えば「塩分25%カット」を謳う天然塩があります。
NaCl含量は約73%で、対する精製塩のNaCl含量は99%以上です。
確かに「NaCl量」だけ見れば少ない。
でも、本当に大事な「ナトリウム量」で比較するとどうでしょうか。
| 塩の種類 | ナトリウム量(100g中) |
|---|---|
| 精製塩 | 約39g |
| 「25%カット」天然塩 | 約29g |
| 一般的な天然塩 | 約25〜33g |



お気づきでしょうか?
「25%カット」天然塩のナトリウム量は、一般的な天然塩とほとんど変わりません。
「塩分25%カット」というのは、ナトリウムを減らしたわけではなく、マグネシウムなどのミネラルで「薄まっている」だけなのです。
しかも、「良い塩だから」と多めに使えば、結局「パン生地(ナトリウム)」を摂りすぎることになります。
高い塩を買う前に、使う量を1g減らしたほうが、あなたの腎臓は100倍喜びます。
「低ナトリウム塩」は全く別物
本当に塩分を下げたいなら、「低ナトリウム塩」という選択肢があります。
これは、ナトリウムを塩化カリウム(KCl)に置き換えた塩で、天然塩や精製塩とは根本的に別物です。



ただし、腎臓病のある方にはカリウムは危険です。
結局のところ「塩にこだわる前に、かかりつけ医に相談」が大前提です。
天然塩でマグネシウムは補給できるのか
「現代人はマグネシウム不足」
「ミネラル豊富な天然塩がいい」



健康雑誌やSNSで、こういった情報を目にしたことはないですか?
実際、「マグネシウム配合」を売りにした天然塩は数多く販売されており、「精製塩より天然塩のほうが体にいい」という考え方も一般的になっています。
でも、本当に天然塩でマグネシウムが補給できるのでしょうか。
計算してみると、意外な事実がわかります。
天然塩で必要量を摂ると塩分過多になる
マグネシウムの1日推奨量は、女性で約290mgです。
これを天然塩だけで摂ろうとすると、どうなるでしょうか。
天然塩のマグネシウム含量は100g中約3,620mg。



一般食塩の200倍にあたります。
推奨量290mgを摂るために必要な量を計算すると、約8gです。
しかし、8gの天然塩に含まれるナトリウムは約2.3g。
これは女性の1日のナトリウム上限(約2.5g)にほぼ到達してしまう量です。
マグネシウムを摂るためにナトリウム過多になる…。



完全に本末転倒です。
マグネシウムは普通の和食で摂れる
では、どうすればマグネシウムを安全に補給できるのか。
答えは「普通の和食」にあります。
| 食品 | 1食あたりのMg量 |
|---|---|
| 納豆1パック(40g) | 約40mg |
| 豆腐半丁(150g) | 約60mg |
| わかめの味噌汁1杯 | 約30mg |
| アーモンド20粒 | 約50mg |
| バナナ1本 | 約30mg |
| 合計 | 約210mg |
推奨量290mgのうち、約7割をこの組み合わせで満たせます。
残りの約80mgも、玄米や緑黄色野菜など普段の食材で自然に補える量です。



日本の伝統食は、塩分を抑えつつミネラルを摂るために、実によくできています。
漬物は要注意
我が家の食卓では、日本文化と医学が毎日衝突しています。



日本人にとって漬物は文化。でも内科医の立場からすれば「塩分の時限爆弾」。
| 漬物の種類 | 塩分量 |
|---|---|
| 梅干し1個 | 約2g |
| 白菜漬け50g | 約1〜1.5g |
| たくあん3切れ | 約1g |
約1〜1.5g朝ごはんに漬物を2〜3種類並べるだけで、女性の1日の塩分目標(6.5g)の半分近くが終わります。



実はわたしは梅干しが大好き。
なので、内科医を黙らせるべく、色んな効能を挙げてみましたがどれもいまいちでした。
「梅干しのクエン酸で疲労回復」というのも、現代医学ではエビデンスが弱い。
たしかにクエン酸は、体がエネルギーを作り出す代謝経路(クエン酸回路)の一員ではあります。
でも、それは体の中でもともと働いている仕組みの話。
口から梅干しを食べたからといって、その疲労回復効果が出るかどうかは、また別の話なのです。
結局、梅干しは「健康のために食べる」のではなく、「塩分を覚悟したうえで、その味と文化を楽しむ嗜好品」と割り切る。
それが、病理医としての誠実な向き合い方だと思っています。
今日からできる最強の減塩



ここで高い塩を買うより効果がある具体的な小技を。
「上からかける」が最強
塩を食材の中まで染み込ませるより、仕上げに表面へかける方が、舌に直接触れる塩分が増えます。



少量でもしっかり塩味を感じられます。
だから、塩が中まで染みる煮物より、表面で塩味を感じる塩焼きの方が、総量では塩分が少なくなることが多いのです。
塩は、なるべく調理後に上からかけるとよいでしょう。
「つける」と「かける」は大違い
醤油は、料理にかけるのではなく、小皿に出して「つける」スタイルにしましょう。
上からかけると全体に行き渡って量が増えますが、つけるのなら醤油が触れる面を限定できます。
例えば回転すしでは、お寿司に醤油をかけるのではなく小皿に醤油を出してつけることです。
それだけで、使う量が半分以下になります。
干物に注意
「塩焼きのつもり」で干物を選ぶと、思わぬ落とし穴があります。
干物は、加工の段階で塩漬けにされているため、生の魚を焼いた塩焼きより塩分が高くなります。
魚を選ぶときは、加工してあるかどうかを確認してください。
塩分は積み重なる
唐揚げ、ごはん、味噌汁、漬物。
このように「ごく普通の定食」で、塩分は4〜5gに達することもあります。
例えば、漬物を1品減らす、味噌汁の汁は残すだけで1〜2gは減らせます。
私が購入したサプリの特許を調べてみた
少し本題から遠ざかっていましたが、ここで私が購入したサプリについてお伝えします。
私が購入したのは、「体内保持型ビタミンC」と「ある柑橘由来のポリフェノール」を組み合わせたサプリメントでした。
「大学との共同開発」「特許取得済」という言葉に安心していましたが、パッケージに記載された特許番号を特許情報データベースで実際に調べてみて驚きました。



出てきたのは、こんな情報でした。
- ビタミンCの持続性とは無関係
- 「認知機能」とも「免疫」とも無関係
- 美白・シミ改善のための製法特許
しかも、特許のエビデンスの実態は試験管の中での実験です。
ヒトでもマウスでもなく、試験管に酵素溶液を入れて反応を見たものでした。
さらに調べると、ポリフェノール成分に関する別の研究のエビデンスは、なんとゼブラフィッシュ(熱帯魚の幼生)を使ったものでした。



エビデンスには「信頼性のレベル」があります。
正式な医学のピラミッドはもう少し細かいのですが、わかりやすくざっくり並べるとこんな感じです。
| 信頼性 | 研究の種類 |
|---|---|
| 高 | 大規模ヒト臨床試験 |
| ↑ | 小規模ヒト臨床試験 |
| ↑ | 動物実験(マウス・ラット) |
| ↑ | ゼブラフィッシュ実験 |
| 低 | 試験管実験←今回の特許はここ |
今回の特許のエビデンスは、ピラミッドの最下位「試験管実験」。
人間どころか動物の体すら使っていない、試験管の中の反応です。
生き物の体の中で同じことが起こる保証すらありません。



そして決定的なこと。
この特許、現在は消滅しています(存続期間満了)。
つまり、「大学が特許を取得した」は過去形が正確です。
「取得した」ことは本当ですが、もう存在していません。
特許取得は効果の証明ではないし、永遠ではないのです。
まとめ
健康食品の世界には、知っておくべき構造があります。
「エビデンスがある」というフレーズは、必ずしも「効果が証明された」という意味ではなく、多くの場合、企業が販売のために行った試験の結果を指します。
「特許取得」は、新規性のある技術であるという意味であって、効果が証明されたという意味ではありません。
「大学名」が記載されていることは、産学連携の関係があるという意味であって、その大学が商品の効果を保証しているわけではありません。
「報告されています」という表現は、試験管の中や動物実験で何らかの現象が観察されたという意味であって、人間で同じ効果が出るとは限りません。
そして覚えておいてほしいのは、研究費は売り上げが見込める成分にはつきやすく、安価な天然成分にはつきにくいということです。
「エビデンスが少ない」ことと「効果がない」ことは、別の話なのです。



私は病理医として、これらの構造を知っていたはずでした。
それなのに、15,000円のサプリ福袋を買ってしまいました。
「特許取得」と「効果」という言葉が並ぶと、知識があるほど「筋が通っている」と感じてしまうのです。
だからこそ、誰もが引っかかる可能性があります。
健康志向そのものを楽しみたいならそれはそれで構いません。
でも、本気で体を労わりたいなら、「足す」より「見直す」ことから始めてみてください。
- 良い塩を選ぶ前に使う量を1グラム減らす
- 高いビタミンサプリを買う前に旬の果物を食べる。
- 毎日の食事を一段階丁寧にする



病理医としてこれが最も安くて確実な健康法だと思っています。
次の有料記事では、「なぜ賢い人でも買ってしまうのか」を、行動経済学と認知バイアスの視点から掘り下げます。
健康食品マーケティングの構造をさらに深く解体し、病理医が普段どうやって商品を見ているか、その考え方をお伝えします。










